2021年5月11日火曜日

「BMW E46 M3 6連スロットル について - 徒然-」


 BMW E46 M3には 6連スロットル が装着されており、これは初代E30 M3の4連スロットルからの輝かしい系譜ですね。ご存じのようにE36M3もE46同様に6連スロットル、E90/E92は4連スロットル×2バンクという構成です。

これら連成スロットルのメリットとデメリットのアウトラインについて、技術者の視点から概略を考えてみたいと思います。

 

E46M3_6連スロットル


 

■Contents

  1. 成スロットルの構造 
  2. 連成スロットルのメリット/デメリット
  3. 落としどころ
  4. 参考情報_他車ベンチマーク 

       

      1. 連成スロットルの構造

       連成スロットルとは、それぞれの気筒毎がスロットルバルブを有し、それらが同時にアクセルに連動した開閉をおこなって吸入空気量制御をおこなうスロットル機構のことを云います。ソレックスやウェーバーのようなシリンダーヘッド直付けのキャブレターと基本的には同じ機能となります。インジェクターは、各スロットルバルブの直後に吸気ポート内に配置され、吸気バルブに向けて噴射されます。従来のワイヤーでアクセルペダルと連結される方式と、E46M3も含めた昨今のアクセルバイワイヤーと云われるアクセル開度センサーとスロットルアクチュエータにより開閉をコントロールする方式があります。後者は、エンジン回転と要求トルクを基本とした各種補正を掛けたマップで制御されます。E46M3もSportsモードがありますが、これは、アクセルの開加速度の補正項を大きくとったもの、つまり過敏にしたものです。慣れないとなかなかうまく扱えないくらいの超高感度レスポンスになっていますよね。これも連成スロットルがあって初めて成せる技術です。

       

      2. 連成スロットルのメリット/デメリット

      2-1. 連成スロットルのメリット

      メリットとしては、大きく分けて二つあります。

      ・高レスポンス化

      ・高回転域での吸入空気量増化 

       

      2-1-1. 高レスポンス化

      同一エンジン回転にて、スロットルバルブを閉じた状態から一気に全開まで開けた状況を想定します。閉じた状態では、『スロットルバルブ~吸気バルブ~燃焼室』の空間は、ほぼ真空となっていますが、この状態からスロットルを開けると、"先ずは" 吸入空気でこの空間を満たす必要があります。単純な話ですが、吸入空気は音速で取り込まれるとはいえ、この容積が大きければ大きいほど『スロットルバルブ~吸気バルブ~燃焼室』を空気で満たす(NAであれば大気圧になる)までにはそれなりの時間を要します。つまりこの間はドライバーが要求するトルクを得るまでに時間を要するということと同じことであり、言い換えれば、この時間が短ければ短いほど高いレスポンスということになります。そのためには、先ずはスロットルバルブより下流の容積を極力小さくする必要があります。その手段が連成スロットルです。

      ちなみに、この空気の動きに連動した燃料供給をおこない、確かな燃焼をさせてトルクを出してゆくことには必要で前提条件となりますが、このような過渡状態では、音速で飛び込む空気に燃料は全て吸入空気量計測後の後追い計算による燃料噴射量算出となり、噴射が若干遅れます。これに起因する特に過渡でのヘジテーションや加速不良(燃料リーン化)を防ぐために、加速判定がなされた直後は、クランクアングルに同期していない非同期噴射を打ちまくるようにしてこのリーン化を防いでいます。

       

      2-1-2. 高回転域での吸入空気量増化

      高いレスポンスを獲得することが主目的の連成スロットルですが、それと同時に高回転域での吸入空気量増もある程度見込める手段に成り得ます。エンジンの出力は吸入空気量によってある意味一義的に決まります。自然吸気エンジンでの吸入空気量は基本的に吸気管内圧力にて大気圧相当が最大値ですが、吸排気の脈動を上手く活用することでこの圧力を「プラスの圧力」までもってゆくことができます。つまり過給ですね。可変バルブタイミングの効果も併せてHONDA VTECもNAながら体積効率で110%前後まで過給できていますし、沢山のバルブでの吸気管長可変機構を持つSE3P RX-8などもそれに近い効率を得ています。これらの車種が使用している脈動の活用は主に下記があります。

      ①自気筒の吸気脈動の活用(慣性過給)

      ②他気筒の脈動を相互に活用(共鳴過給)

      連成スロットルは、気筒毎に不独立した吸気管のために②は積極的には使えませんが、①を使用することができます。但し、吸気バルブ~ファンネル開放端までの長さが固定の為、特定の周波数付近だけ同調効果が出る、ある意味ピンポイントで吸入空気を増やすことができるということになるかと思います。そういえばその昔、Mazda787Bの4Rotorはこの吸気管長を可変とするトロンボーンのような可変機構をもっていましたね。これは慣性過給の同調周波数を可変にしてより広いエンジン回転数の範囲で空気を取り込もうとした技術です。

      E46M3は、7900rpmで最大出力を得る高回転ユニットです。スロットルバルブから上流はこの回転域に慣性過給の同調周波数を合わせるべく、サージタンクの中に突き出す形で吸気管が伸びています。これでレスポンスと吸気脈動の活用を最大化できていると考えます。しかし、このサージタンクも量産とは思えないきちんとした造りでBMW/M社の本気度が伝わります。

      ちなみに、4AGの4連スロットルやRBの6連スロットルなどはスロットルバルブ~ファンネルまでの上流の長さは殆どありませんので、得られる効果はレスポンスが主で、並みの使用回転域であれば慣性過給は望めないと思います。over10000rpmの超高回転ユニットとなれば話は変わってくるとは思いますが。

       

      2-2. 連成スロットルのデメリット

      デメリットとしては、大きく分けて3つあります。

      ・低速トルクの減少

      ・気筒毎の空燃比制御性(インジェクタ、スロットルバルブの製品ばらつき吸収)

      ・コスト 

       

      2-2-1. 低速トルクの減少

      先に書いたように、吸気管長は慣性過給に大きく寄与します。長くする方向:低速域狙い(低周波数化)であり、短くする方向:高速域狙い(高周波数化)とう図式ですので、基本的に高速域に狙いを定めた設定をしている連成スロットルを使った吸気系では、低速域方向での慣性過給は望めませんので、低速トルクは低下します。レースでは低速域は使わないので問題ないとするでしょうが、日常の足としてはかなり辛いものがあるかと思います。しかも、このようなチューンをする際には、吸排気のカムも高速域に合わせた吸排気タイミングを使用するでしょうから低速域への影響は尚更となります。

      2-2-2. 気筒毎の空燃比制御性

      E46M3のように量産エンジンとして考えるならば、連成スロットルの技術的な課題としては、気筒毎の空燃比ばらつきとその保障が筆頭に挙がると思います。昨今のクルマは、E46M3も含め、吸入空気量をエアフローセンサーで計測し、それに見合う燃料を舞サイクルごとに算出し燃料を噴射するL-Jetro制御が基本ですが、E46M3もエアフローセンサーは上流にひとつですので、6気筒分の、ある意味大分なまった平均的な流量を計測しています。ですので、部品バラツキによる気筒毎の吸入空気量の差異は考慮することが困難であり、ある気筒の空燃比はリーンで、ある気筒はリッチに振れているということが発生します。これはどのクルマも同じことが言えますが、各気筒にスロットルバルブを持つということがこの空燃比の振れ幅に影響する要らぬ大きな管理項目がひとつ増えることが量産エンジンとしては大きな課題となります。何が問題となるかと云えば、筆頭は排気エミッションの量産車としての管理保証です。部品メーカーライン、量産検査ラインでのスロットルバルブ開度調整作業が要らぬ工数として積みあがっている上にこの量産エンジンは成立しているものと思います。新車時の開度管理(空気流量管理)と経時劣化を含めた空燃比ばらつきの保証(排気ガスエミッション保証)を、各仕向け地の当局に申請し納得させているはずです。このスロットルの空燃比への影響を保障できれば、後は通常の量産車のようにキャタリスト(触媒)前の全気筒からの平均空燃比を理論空燃比に合わせられていてキャタリスト後方の排気エミッションが各仕向け地の規制値内に収まっている保障ができていれば良いことになります。ここは通常のクルマ造りと同じ工程となります。

      ※ソレックスのキャブ車では、シンクロメーターという計測器を使って 「同調をとる」 という作業を行いますよね。これも同じことで、気筒毎の空気流量を合わせ、気筒間の空燃比ばらつきを抑えているのです。

       

      2-2-3. コスト

      連成スロットルは、言わずもがなスロットルバルブが気筒の数だけ増えますので、部品そのもののコストがそれだけ増加しますし、先に書いたように、開度管理などの工数も含めると大変な部品となります。しかし、あのカミソリレスポンスを実現させるためであれば何とか他でコストリダクションするなりを頑張るのがエンジニアです。譲れぬ想いは半端ではなく強いハズです。。 或いは、 コストアップ?車輛価格に載せておけ! というところでしょうね。

      E30M3_4連スロットル

       


      3. 落としどころ

      ということで、BMW/M社は、この6連スロットルの超絶カミソリレスポンスと1570kgの車体を怒涛のパフォーマンスで疾走させるために、これらの課題(高回転領域のパワーと中低速域のトルクの両立性 / 排気エミッション成立性)を克服させる技術シナリオを立てました。特に主要な技術の柱となったのはVANOS(可変バルブタイミングシステム)とタコ足排気システム、排気量及び圧縮比の設定、追加の補器デバイス設置であると考えます。


       

      ■BMW/M社がE46M3で実現したかったこと

      ・ベースとなる熱効率を一気に引き上げる

      ・伝統の超絶レスポンスの連成スロットルを成立させる

      ・どの回転域も犠牲にせず、全域のトルク特性を手中におさめる

      ・1570kgの車体にM3の伝統である問答無用のパフォーマンス(絶対値)を与える

      ・その上で、当然法規制には適合させる

       

      ■BMW/M社の対応技術シナリオ

      ・VANOS+圧縮比11.5化+タコ足排気マニホールド+2次エアーシステム: 

      ・高圧縮比化による異常燃焼回避のための全域バルブタイミング連続可変による吸気への排気戻り(ダイリューションガス)の抑制(断熱圧縮時のガス温度低減)

      ・低速域と高速域の出力特性の両立

      ・冷間始動直後の排気エミッション低減(Raw-HC低減)

      ・排気量3200cc設定:

      ・E36M3比、重くなった車重を引っ張るためのトルクの底上げ

       

      これらによりBMW M3に求める世のニーズクルマに求める当局のニーズ高い次元でバランスさせました。ただし、前提とする時代背景は、排気エミッションや燃費をはじめとする各種規制も現在と比べると比較にならないレベルで緩かった時代の産物であって、この点だけをみても、もう二度と量産車として世に出ることの無いクルマであることは間違いありません。その意味でもこの手のクルマは歴史的価値の高いクルマですので、後世に残すべく大切にしてゆくこともの乗り手の我々の義務でもあると思っています。

      自動車税の納税の季節になりました。毎年、古いとされるクルマを保有している者は意味も分からぬ高額の税金納税を強要されます。クルマを単なる耐久消費財としてしか考えられないチープな価値観しか持ち合わせていない役人や政治家は、人間の営みのあらゆる方向に 「文化」 が在ることを理解しなければユニバーサルな思考などできないさ、、とぶつぶつ悪態をつきながらも納税しています。。

      今回、一部技術の表層的な部分だけの言及となりましたが、また折を見てひとつひとつを掘り下げていきたいと思います。

       


      4. 参考情報_他車ベンチマーク 

      ご参考までに連成スロットルをもつGTRの情報も併せて載せておきます。


      ・R32GTR RB26DETT I6-TwinTurbo:  6連スロットル(ターボ車でNAのレスポンスを追及)
      ・R35GTR VR38DETT V6-TwinTurbo : シングルスロットル×2バンク  
      ・E30 M3 I4-NA: 4連スロットル 195ps@7000rpm
      ・E36 M3 I6-NA: 6連スロットル   321ps@7400rpm  
      ・E90/92/93 M3 V8-NA: 3連スロットル×2バンク 420ps@8300rpm!  クロスプレーンクランクが残念だが良いエンジン
      ・F80 M3 I6-TwinTurbo: Singleスロットル  500ps@6250rpm


       

      蛇足)その昔DTMを走っていたアルファ155DTMのV6はフロントミッドに縦に搭載された量産車とはまるで異なるFRベースの4WDでしたが、このエンジンのスロットルは3連スロットル×2バンクであり、インジェクターはスロットルバルブの上流側に装着されていました。つまり、燃料はスロットルバルブに吹き付けるような配置でした。スロットルを閉じているときにはスロットルバルブに燃料が吹き付けれられる構造で、燃料輸送的には全く効率的ではない仕様でした。このエンジンは超ショートストロークの超高回転エンジンでしたので(下表)、超高回転域で空気充填量を稼ぐために"自身の吸気脈動を利用する過給"をおこなう際の同調周波数が高いところにあることから、極力、吸気バルブからスロットル上部の解放端(エアファンネルの端)までの長さを短くしてこの同調周波数をover10000rpmにもってゆく必要があったためと勝手に推察しています。このように高速域に主眼を置いているため、低速域(5000rpmくらいまで?)での充填量は極めて少なくトルクはスカスカで、加えて、バラついてまともに廻らなかったと思います。ハイチューンエンジンならではの状況だったと推測しますが、いずれにせよ、アイドルや軽負荷などの運転性など無視できるレースならではの仕様と云えます。


      155DTM-Specification

      table-performance

      ALFA155DTM

       ■ご参考まで:

      0 件のコメント:

      コメントを投稿

      人気の投稿