2021年5月11日火曜日

「BMW E46 M3 6連スロットル について - 徒然-」


 BMW E46 M3には 6連スロットル が装着されており、これは初代E30 M3の4連スロットルからの輝かしい系譜ですね。ご存じのようにE36M3もE46同様に6連スロットル、E90/E92は4連スロットル×2バンクという構成です。

これら連成スロットルのメリットとデメリットのアウトラインについて、技術者の視点から概略を考えてみたいと思います。

 

E46M3_6連スロットル


 

■Contents

  1. 成スロットルの構造 
  2. 連成スロットルのメリット/デメリット
  3. 落としどころ
  4. 参考情報_他車ベンチマーク 

       

      1. 連成スロットルの構造

       連成スロットルとは、それぞれの気筒毎がスロットルバルブを有し、それらが同時にアクセルに連動した開閉をおこなって吸入空気量制御をおこなうスロットル機構のことを云います。ソレックスやウェーバーのようなシリンダーヘッド直付けのキャブレターと基本的には同じ機能となります。インジェクターは、各スロットルバルブの直後に吸気ポート内に配置され、吸気バルブに向けて噴射されます。従来のワイヤーでアクセルペダルと連結される方式と、E46M3も含めた昨今のアクセルバイワイヤーと云われるアクセル開度センサーとスロットルアクチュエータにより開閉をコントロールする方式があります。後者は、エンジン回転と要求トルクを基本とした各種補正を掛けたマップで制御されます。E46M3もSportsモードがありますが、これは、アクセルの開加速度の補正項を大きくとったもの、つまり過敏にしたものです。慣れないとなかなかうまく扱えないくらいの超高感度レスポンスになっていますよね。これも連成スロットルがあって初めて成せる技術です。

       

      2. 連成スロットルのメリット/デメリット

      2-1. 連成スロットルのメリット

      メリットとしては、大きく分けて二つあります。

      ・高レスポンス化

      ・高回転域での吸入空気量増化 

       

      2-1-1. 高レスポンス化

      同一エンジン回転にて、スロットルバルブを閉じた状態から一気に全開まで開けた状況を想定します。閉じた状態では、『スロットルバルブ~吸気バルブ~燃焼室』の空間は、ほぼ真空となっていますが、この状態からスロットルを開けると、"先ずは" 吸入空気でこの空間を満たす必要があります。単純な話ですが、吸入空気は音速で取り込まれるとはいえ、この容積が大きければ大きいほど『スロットルバルブ~吸気バルブ~燃焼室』を空気で満たす(NAであれば大気圧になる)までにはそれなりの時間を要します。つまりこの間はドライバーが要求するトルクを得るまでに時間を要するということと同じことであり、言い換えれば、この時間が短ければ短いほど高いレスポンスということになります。そのためには、先ずはスロットルバルブより下流の容積を極力小さくする必要があります。その手段が連成スロットルです。

      ちなみに、この空気の動きに連動した燃料供給をおこない、確かな燃焼をさせてトルクを出してゆくことには必要で前提条件となりますが、このような過渡状態では、音速で飛び込む空気に燃料は全て吸入空気量計測後の後追い計算による燃料噴射量算出となり、噴射が若干遅れます。これに起因する特に過渡でのヘジテーションや加速不良(燃料リーン化)を防ぐために、加速判定がなされた直後は、クランクアングルに同期していない非同期噴射を打ちまくるようにしてこのリーン化を防いでいます。

       

      2-1-2. 高回転域での吸入空気量増化

      高いレスポンスを獲得することが主目的の連成スロットルですが、それと同時に高回転域での吸入空気量増もある程度見込める手段に成り得ます。エンジンの出力は吸入空気量によってある意味一義的に決まります。自然吸気エンジンでの吸入空気量は基本的に吸気管内圧力にて大気圧相当が最大値ですが、吸排気の脈動を上手く活用することでこの圧力を「プラスの圧力」までもってゆくことができます。つまり過給ですね。可変バルブタイミングの効果も併せてHONDA VTECもNAながら体積効率で110%前後まで過給できていますし、沢山のバルブでの吸気管長可変機構を持つSE3P RX-8などもそれに近い効率を得ています。これらの車種が使用している脈動の活用は主に下記があります。

      ①自気筒の吸気脈動の活用(慣性過給)

      ②他気筒の脈動を相互に活用(共鳴過給)

      連成スロットルは、気筒毎に不独立した吸気管のために②は積極的には使えませんが、①を使用することができます。但し、吸気バルブ~ファンネル開放端までの長さが固定の為、特定の周波数付近だけ同調効果が出る、ある意味ピンポイントで吸入空気を増やすことができるということになるかと思います。そういえばその昔、Mazda787Bの4Rotorはこの吸気管長を可変とするトロンボーンのような可変機構をもっていましたね。これは慣性過給の同調周波数を可変にしてより広いエンジン回転数の範囲で空気を取り込もうとした技術です。

      E46M3は、7900rpmで最大出力を得る高回転ユニットです。スロットルバルブから上流はこの回転域に慣性過給の同調周波数を合わせるべく、サージタンクの中に突き出す形で吸気管が伸びています。これでレスポンスと吸気脈動の活用を最大化できていると考えます。しかし、このサージタンクも量産とは思えないきちんとした造りでBMW/M社の本気度が伝わります。

      ちなみに、4AGの4連スロットルやRBの6連スロットルなどはスロットルバルブ~ファンネルまでの上流の長さは殆どありませんので、得られる効果はレスポンスが主で、並みの使用回転域であれば慣性過給は望めないと思います。over10000rpmの超高回転ユニットとなれば話は変わってくるとは思いますが。

       

      2-2. 連成スロットルのデメリット

      デメリットとしては、大きく分けて3つあります。

      ・低速トルクの減少

      ・気筒毎の空燃比制御性(インジェクタ、スロットルバルブの製品ばらつき吸収)

      ・コスト 

       

      2-2-1. 低速トルクの減少

      先に書いたように、吸気管長は慣性過給に大きく寄与します。長くする方向:低速域狙い(低周波数化)であり、短くする方向:高速域狙い(高周波数化)とう図式ですので、基本的に高速域に狙いを定めた設定をしている連成スロットルを使った吸気系では、低速域方向での慣性過給は望めませんので、低速トルクは低下します。レースでは低速域は使わないので問題ないとするでしょうが、日常の足としてはかなり辛いものがあるかと思います。しかも、このようなチューンをする際には、吸排気のカムも高速域に合わせた吸排気タイミングを使用するでしょうから低速域への影響は尚更となります。

      2-2-2. 気筒毎の空燃比制御性

      E46M3のように量産エンジンとして考えるならば、連成スロットルの技術的な課題としては、気筒毎の空燃比ばらつきとその保障が筆頭に挙がると思います。昨今のクルマは、E46M3も含め、吸入空気量をエアフローセンサーで計測し、それに見合う燃料を舞サイクルごとに算出し燃料を噴射するL-Jetro制御が基本ですが、E46M3もエアフローセンサーは上流にひとつですので、6気筒分の、ある意味大分なまった平均的な流量を計測しています。ですので、部品バラツキによる気筒毎の吸入空気量の差異は考慮することが困難であり、ある気筒の空燃比はリーンで、ある気筒はリッチに振れているということが発生します。これはどのクルマも同じことが言えますが、各気筒にスロットルバルブを持つということがこの空燃比の振れ幅に影響する要らぬ大きな管理項目がひとつ増えることが量産エンジンとしては大きな課題となります。何が問題となるかと云えば、筆頭は排気エミッションの量産車としての管理保証です。部品メーカーライン、量産検査ラインでのスロットルバルブ開度調整作業が要らぬ工数として積みあがっている上にこの量産エンジンは成立しているものと思います。新車時の開度管理(空気流量管理)と経時劣化を含めた空燃比ばらつきの保証(排気ガスエミッション保証)を、各仕向け地の当局に申請し納得させているはずです。このスロットルの空燃比への影響を保障できれば、後は通常の量産車のようにキャタリスト(触媒)前の全気筒からの平均空燃比を理論空燃比に合わせられていてキャタリスト後方の排気エミッションが各仕向け地の規制値内に収まっている保障ができていれば良いことになります。ここは通常のクルマ造りと同じ工程となります。

      ※ソレックスのキャブ車では、シンクロメーターという計測器を使って 「同調をとる」 という作業を行いますよね。これも同じことで、気筒毎の空気流量を合わせ、気筒間の空燃比ばらつきを抑えているのです。

       

      2-2-3. コスト

      連成スロットルは、言わずもがなスロットルバルブが気筒の数だけ増えますので、部品そのもののコストがそれだけ増加しますし、先に書いたように、開度管理などの工数も含めると大変な部品となります。しかし、あのカミソリレスポンスを実現させるためであれば何とか他でコストリダクションするなりを頑張るのがエンジニアです。譲れぬ想いは半端ではなく強いハズです。。 或いは、 コストアップ?車輛価格に載せておけ! というところでしょうね。

      E30M3_4連スロットル

       


      3. 落としどころ

      ということで、BMW/M社は、この6連スロットルの超絶カミソリレスポンスと1570kgの車体を怒涛のパフォーマンスで疾走させるために、これらの課題(高回転領域のパワーと中低速域のトルクの両立性 / 排気エミッション成立性)を克服させる技術シナリオを立てました。特に主要な技術の柱となったのはVANOS(可変バルブタイミングシステム)とタコ足排気システム、排気量及び圧縮比の設定、追加の補器デバイス設置であると考えます。


       

      ■BMW/M社がE46M3で実現したかったこと

      ・ベースとなる熱効率を一気に引き上げる

      ・伝統の超絶レスポンスの連成スロットルを成立させる

      ・どの回転域も犠牲にせず、全域のトルク特性を手中におさめる

      ・1570kgの車体にM3の伝統である問答無用のパフォーマンス(絶対値)を与える

      ・その上で、当然法規制には適合させる

       

      ■BMW/M社の対応技術シナリオ

      ・VANOS+圧縮比11.5化+タコ足排気マニホールド+2次エアーシステム: 

      ・高圧縮比化による異常燃焼回避のための全域バルブタイミング連続可変による吸気への排気戻り(ダイリューションガス)の抑制(断熱圧縮時のガス温度低減)

      ・低速域と高速域の出力特性の両立

      ・冷間始動直後の排気エミッション低減(Raw-HC低減)

      ・排気量3200cc設定:

      ・E36M3比、重くなった車重を引っ張るためのトルクの底上げ

       

      これらによりBMW M3に求める世のニーズクルマに求める当局のニーズ高い次元でバランスさせました。ただし、前提とする時代背景は、排気エミッションや燃費をはじめとする各種規制も現在と比べると比較にならないレベルで緩かった時代の産物であって、この点だけをみても、もう二度と量産車として世に出ることの無いクルマであることは間違いありません。その意味でもこの手のクルマは歴史的価値の高いクルマですので、後世に残すべく大切にしてゆくこともの乗り手の我々の義務でもあると思っています。

      自動車税の納税の季節になりました。毎年、古いとされるクルマを保有している者は意味も分からぬ高額の税金納税を強要されます。クルマを単なる耐久消費財としてしか考えられないチープな価値観しか持ち合わせていない役人や政治家は、人間の営みのあらゆる方向に 「文化」 が在ることを理解しなければユニバーサルな思考などできないさ、、とぶつぶつ悪態をつきながらも納税しています。。

      今回、一部技術の表層的な部分だけの言及となりましたが、また折を見てひとつひとつを掘り下げていきたいと思います。

       


      4. 参考情報_他車ベンチマーク 

      ご参考までに連成スロットルをもつGTRの情報も併せて載せておきます。


      ・R32GTR RB26DETT I6-TwinTurbo:  6連スロットル(ターボ車でNAのレスポンスを追及)
      ・R35GTR VR38DETT V6-TwinTurbo : シングルスロットル×2バンク  
      ・E30 M3 I4-NA: 4連スロットル 195ps@7000rpm
      ・E36 M3 I6-NA: 6連スロットル   321ps@7400rpm  
      ・E90/92/93 M3 V8-NA: 3連スロットル×2バンク 420ps@8300rpm!  クロスプレーンクランクが残念だが良いエンジン
      ・F80 M3 I6-TwinTurbo: Singleスロットル  500ps@6250rpm


       

      蛇足)その昔DTMを走っていたアルファ155DTMのV6はフロントミッドに縦に搭載された量産車とはまるで異なるFRベースの4WDでしたが、このエンジンのスロットルは3連スロットル×2バンクであり、インジェクターはスロットルバルブの上流側に装着されていました。つまり、燃料はスロットルバルブに吹き付けるような配置でした。スロットルを閉じているときにはスロットルバルブに燃料が吹き付けれられる構造で、燃料輸送的には全く効率的ではない仕様でした。このエンジンは超ショートストロークの超高回転エンジンでしたので(下表)、超高回転域で空気充填量を稼ぐために"自身の吸気脈動を利用する過給"をおこなう際の同調周波数が高いところにあることから、極力、吸気バルブからスロットル上部の解放端(エアファンネルの端)までの長さを短くしてこの同調周波数をover10000rpmにもってゆく必要があったためと勝手に推察しています。このように高速域に主眼を置いているため、低速域(5000rpmくらいまで?)での充填量は極めて少なくトルクはスカスカで、加えて、バラついてまともに廻らなかったと思います。ハイチューンエンジンならではの状況だったと推測しますが、いずれにせよ、アイドルや軽負荷などの運転性など無視できるレースならではの仕様と云えます。


      155DTM-Specification

      table-performance

      ALFA155DTM

       ■ご参考まで:

      2021年5月1日土曜日

      「BMW E46 M3 高圧縮比エンジンのアイドリング -徒然-」

       現在はアイドルストップも当たり前の世の中ではありますが、先日BMW E46 M3 S54エンジンでのスパークプラグについて考察記事を書きましたので、圧縮比ε=11.5というこの高圧縮比エンジンでのアイドリング運転についても簡単にですが取り巻く制約と対応技術概要を徒然で記しておきます。

      ※少し専門用語が出てきますが、出来るだけかみ砕いて書きたいと思いますので、お気楽に読んでみてください

      BMW E46M3 エンジンルーム外観


      ■Contents

      1. そもそもアイドリング運転とは
      2. アイドリング運転を取り巻く環境 -- 熱効率と着火性、排気ガスエミッションについて
      3. 落としどころ
      4. 補足)冷間始動時のEMについて (AirPumpの必要性)



      1. そもそもアイドリング運転とは:

      アイドリング運転は "無負荷運転" と云われるように、自力で目標とする回転数を維持しながら廻り続けるために最低限必要な出力と抵抗との力の関係が釣り合っている状態を云います。

       

      アイドリングでの必要エンジン出力 =  Σ (目標回転数での各種抵抗)


      少し専門的に云い換えると、下記の式にてPe=0とした場合に相当します。

      Pmi (図示平均有効圧力)=Pe(BMEP正味平均有効圧力)+Pf(機械抵抗分平均有効圧力)

      この状態が成立して初めて定回転で廻り続けることができます。


      また、ここで云うところの各種損失とは主に下記があります。 

      • 機械抵抗: 機構的な摺動抵抗
      • ポンピングロス: スロットルロス
      • 各種補器類の仕事抵抗:冷却水/オイルのポンプ駆動負荷、オルタネータ発電負荷、エアコン作動負荷 

      ※シフトはニュートラル前提

      機械抵抗という視点だけで見ると、仮に始動して間もない冷間時では、オイルの粘度も高くオイルポンプの仕事をひとつとってみてもとても大きいものになります。また、エンジン内部の各摺動部位のオイルも高粘度の状態ですので、エンジンを廻すにはとても大きな力を要します。ですから、冷間時のアイドル運転では、大きな発生出力を出させないと目標とするエンジン回転数を維持できないことになります。これは、スロットルをかなり開けてそれに見合う多量の空気と燃料を要求するということを意味します。

      エンジンが徐々に温まり温間となるにつれ、各抵抗もどんどんと下がってゆきます。伴って、目標とする回転数を維持するために必要な出力も減量してゆきます。つまり、スロットルを閉じる方向に動きますね。このように、特に "温度" に起因する一連の特性の変化にアイドリング運転がエンジンに要求する出力も変わってゆくということになります。(実態としてはこれに燃料系の気化霧化も大きく変化しますので、とても複雑です)



      2. アイドリング運転を取り巻く環境-1 -- 熱効率と着火性について

      さて、目標回転数でただ回るだけであれば、エンジンの出力と抵抗値合計の力関係で良いのですが、クルマ用の実用エンジンとしては商品性からの様々な制約規制などがあり、その中でも主だったものを挙げると下記になります。


      • 商品性上の主な制約: 静粛性(失火、燃焼による不要な振動回避)、 微低速トルク確保 
      • 燃費規制、排気ガス規制(世界各国)からの制約: 燃費規制値への適合、 排気ガス規制値への適合



      2-1. アイドリングの熱効率(燃費規制値への適合)

      ここで云うところの熱効率とは、ある目標回転数にてアイドリング運転をおこなう際の燃料消費量と考えて頂いて差し支えありません。これを Qfuel(L/hr)などと云ったりますが(以降Qf)、1300cc量産車Bカークラスの一般的な車輛において、エアコンOFFで0.5~0.6l/hr程度を消費します。排気量が大きければそれだけ多くの燃料を消費します。

      また、都市部と地方では状況は多少違いますが、実は、日常的な運転の中でアイドリング運転が占める割合は思うよりも大きく、アイドリングの燃費改善は、トータルとしての燃費に大きく寄与します。ですので、この点は、現在は各社ともにアイドルストップを標準で装備するなど主要技術のひとつに位置付けているその背景になります。少し逸れましたが、このQfの低減を図る、つまりアイドリングの熱効率を上げる必要があります。そのためには、熱効率の最も良い燃焼をさせる必要があり、燃焼をコントロールできる因子(制御可能な因子)は、様々ある中でここでは点火タイミング(進角)を取り上げます。


      2-2. アイドリングの熱効率と着火性

      点火タイミングは、熱効率(燃焼)視点からは、限度はありますがかなり進角側を要求します。つまり圧縮上死点よりもずっと前での点火を要求するという意味です。この状態では、立った燃焼となっていき、燃焼期間も短くなって熱効率からは理想的な方向に振れます。同時に、熱効率が上がるため吸入空気量も少なくて済みますので(同じ空燃比ならばQfも減ると同意)、圧縮圧力(有効圧縮比)も下がり、曳いては着火前の混合気温度も下がります。つまり、熱効率の向上は、先日述べた "着火" という視点からは逆に厳しくなる方向に振れることになります。。

      失火限界から進角にも限度がある一方で、また、燃焼によるゴツゴツ感からも進角側遅角側にも限度があります。進角側では尖ったようなコツコツ感、遅角側では鈍いゴトゴト感が出てしまい商品性を悪化させます。


      2-3. 微低速トルク

      また、熱効率が向上することは、先に述べたように吸入空気量が減量することですので、そのままの状態では、例えばシフトを1速にいれてクラッチをつなぎかけた時のエンジントルク(微低速トルク)は小さくなり、発進時がとてもナーバスな状態となってしまい、最悪エンストなどという商品性上ネガティブなものとなります。 ですので、微低速トルクからは、吸入空気量を増やした腰の強いアイドリングを要求し、これは熱効率と相反する要素になります。



      2-4. 排気ガスエミッション

      また、熱効率と相反する他の要素として、排気ガスのエミッションがあります。熱効率重視で燃焼を立て燃焼期間を見短くすることで効率的に燃料からエネルギーを取り出すことができますが、その一方で、主燃焼がささっと終わってしまうため、燃料の燃え残りが多量に出てしまいます。クリーンな排気ガスという視点からは、熱効率と反対の遅角側の点火タイミングを要求し、燃焼を寝かせて燃焼期間を延ばす(燃焼を悪化させる)ことで仕事には変えられないけども(=熱効率は落ちるけれども)しっかりエンジン内で処理してから排出するというプロセスを踏むことを要求します。これを後燃え処理とも云います。


      3. 落としどころ

      このように、制約に囲まれたアイドリング運転ですので、各要素のバランスが大切です。要は、点火タイミングひとつとってみても各現象はトレードオフの関係にあって、"どちらかを立てればどちらかが立たず" という構図は随所にあります。この辺りを踏まえた上での制御セッティング(この考察ではでは点火タイミング設定)や、仕様決定が必要となります。

      • 点火タイミング進角方向要求項目:熱効率(燃費)
      • 点火タイミング遅角方向要求項目:着火性、微低速トルク、排気ガスエミッション

      ※実は、現実は更に何倍も複雑です。。

      いずれにしても、これらトレードオフの関係をより高い次元でおこなえるようにシフトさせることが技術革新であって、新技術開発の価値ということになるかと思います。ですが、対応すべき技術課題の本質は変わりません。時代とともに問われるレベルが上がるだけです。


      4. 補足)冷間始動時の排気ガスエミッションについて(AirPumpの必要性)


      S54にAirPumpが設定されている理由

      実は、S54もそうですし、HONDA S2000もそうなのですが、通常、理論空燃比で廻る高圧縮比(高効率)エンジンは、先に述べたように、燃焼が良い方向に振れるその弊害として排気ガスエミッションが最重要課題のひとつとなるのは避けがたい宿命となります。ですが、排気ガスエミッションのために(地球視点では最重要ですが、、)、パワーや燃費を犠牲にするというはエンジニアとしては本意ではありませんので、極力努力する訳です。何とか規制値をクリアさせるために、これらの高効率エンジンにはほぼ例外なくエアポンプが追加デバイスとして装着されています。実は、どのエンジンもそうなのですが、エンジンが排出する排気ガスの大半をこの冷間始動直後のタイミングで排出しています。高効率エンジンは特にこれが顕著に出てしまい、規制値に適合させることが最重要課題のひとつとなります。

      その意味から、狙いは冷間始動直後に多量に排出される生ガス※1(Raw-EMと云います)を始動直後のわずか数十秒の間だけ、燃費への影響は最小限とする点火タイミングの大幅な遅角(この許容レベルをリターダビリティ Retardability と云います)をおこなって主燃焼の後燃えを促進させると同時に、排気マニホールド或いはシリンダーヘッドの排気ポートに向けてフレッシュエアーを入れ込んで排気ポート、エキマニの中で生ガスを燃やし切ることに加え、3元触媒(キャタリスト)の早期昇温を同時にやって、始動直後の濃い空燃比設定から早期に脱却して排気ガスエミッション改善と燃費改善を同時にやってやろうというAirPump2次エアーシステムが備わっています。キャタリストは温まらないと一切浄化しませんから。

      当然コストは上がりますが、無事、この冷間の排気ガスEMをクリアできて温間になれば、S54も本来の立てた燃焼を行いながら、最高のパフォーマンスを発揮してくれるという訳です。

      2次エアシステム構造図


      ※1 冷間始動直後が排気ガスエミッションの大半が排出されるという点について補足します。エンジン内部が冷たい冷間始動直後は、インジェクターから吹かれた燃料も気化や霧化が悪く、うまく吸入する気流に乗れないことからポートやシリンダー内壁に液滴として付着し、燃焼空燃比が薄く(リーン)なってしまうことで着火できません。ですので、始動時は考えられないくらい多量の燃料を吹いています。そのことに起因して、投入した燃料の大半がそのまま排出されること、また、先に述べたように、高効率が故に生ガスとして排出する量が多いこと、加えて、3元触媒(キャタリスト)の温度が低い内は浄化レベルが低いことが冷間始動直後に排気ガスエミッションが多量に排出されるその主な理由になります。また、排気ガスエミッションは排気量に比例しますので、3200ccのS54は厳しいものがあったはずです。現在の規制に比較すればかなり緩かったとはいえ、BMW(M社)のE46M3開発陣も当時相当苦労したと推測できます。

      エアポンプ近傍



      このように考えると、一品物でしかもアイドリングや極軽負荷運転、ましてや排気ガスエミッションなど全く眼中に入れておく必要ないレースエンジンなどは、ある意味如何に作り易いか、、商品としてのクルマ作りがどれほど大変なことか、、ということがお感じ頂けたのではないでしょうか。
      大分脱線しましたが、内燃機関はどんなどんな状況下にあっても 、先日も書きましたが"確実な着火" が全てのトリガーですので、大切にしていきたいものです。

      その内燃機関も斜陽となる方向に世相は急速に傾いています。デジタルでスマートに動く世界も素晴らしいですので、当然受け入れますが、その一方で、やはり高精度なメカニカル機構をもって最高のパフォーマンスでヒトを圧倒し続ける内燃機関は、個人的には永遠のパートナーだと信じていますし、こんな記事を読んで頂いているみなさんもきっと同感なのだと勝手に思っています。。

      変えるべきところと守るべきもの。どんなことでも見極めが大切ですね。

      「BMW E46 M3 イカリング 車検OKでした」

       当方の車輌は、BMW E46 M3の社外品の イカリング が装着されていますが、品を落としている訳でもないため、そのままとしています。昨年の夏にユーザー車検で陸運局に持ち込みましたが、その際の記事にイカリングについて触れていなかったため、情報共有まで記事として残しておきます。


      物はこれですが、CCFL管なのだと思いますが、明る過ぎず存在感を醸し出しています。

      E46M3イカリング

      法的要件では、

      道路運送車両の保安基準の細目を定める告示 第123条、車幅灯」の項に謳われていて、E46M3に装着する場合に該当する内容を要約すると以下の内容となります。

      • 5W以上(車種により30W以内)の電球を使用すること
      • 白色であること (ウインカーと併用の場合、橙色可)
      • 車の前面の両側に設置のこと(2個または4個)
      • 夜間に300mの位置から確認できる光量であること

      オリジナルの車幅灯は内側にひとつですのでイカリング装着で倍の4つとなりますが、保安基準に適合しています。また、色、光量についても問題ありませんので、NGとなる要素がないと考え、持ち込みました。

      結果、全く指摘もなく通過しましたので、今後も安心して使用していきたいと思います。

      古臭さが消えますので、純正ではないですがその点気に入っています。


      ご参考まで)


       

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